2019.03.08

施工性を考慮してSC杭の中空部を残した改良方法の検討 SC杭の変形性能向上に関する研究(3)(AIJ構造系論文集2019)

田中 佑二郎(ジャパンパイル)、関口 徹(千葉大学)、塚越俊裕(千葉大学)

■掲載誌:日本建築学会構造系論文集 Vol.84, No.756, pp.205-215
■発行所:日本建築学会
■発 行:2019/2

 杭基礎構造において、大地震時を想定した二次設計を求められることが多くなってきている。近年、既往試験データの収集と分析による既製コンクリート杭の強度特性および変形性能の評価1)や性能確認試験が行われている2),3)など。また、PHC杭の中空部にコンクリートを中詰めすることで曲げ変形性能が向上する報告例えば,4)もある。著者らは、既報5)において、各パラメータ(載荷方式、鋼管厚、軸力、中詰め材)がSC杭の曲げ変形性能に与える影響の確認を単純梁方式による曲げ試験により行った。その結果、コンクリート等の中詰め材を用いて杭の中空部を補強することにより、鋼管の陥没や杭体コンクリートの剥落および圧壊の程度が軽減され、杭の曲げ変形性能の向上効果が期待できることを確認した。
 しかしながら、中詰め材を用いて杭の中空部を補強した杭は、施工面での課題がある。例えば、既製コンクリート杭の施工法にプレボーリング工法を採用する場合、掘削土(土砂)とセメント、水を混合攪拌し、ソイルセメントを作った孔内に杭を沈設する。杭を沈設する際に、杭の外周部および中空部がソイルセメントで満たされるため、杭本体部体積分の浮力が杭に作用する。杭の中空部を補強した杭を接続して部分的に使用した場合、ソイルセメントが杭の中空部を自由に行き来できないため、ソイルセメントで満たされない範囲の中空部体積分の浮力が杭に作用することになる。近年の既製コンクリート杭の大径化および長尺化を考えると杭に作用する浮力は大きく、施工の際に杭の沈設が難しくなることが予想される。また、施工法に中掘り工法を採用する場合、施工治具(オーガーヘッドやスクリュー等)を杭の中空部に設置する必要があるが、杭の中空部が補強された杭では、それらの施工治具を設置することができない。また、杭の施工後に中詰め材を用いて補強する場合、杭の中空部に硬化したソイルセメントを除去および清掃作業が必要となるが、その作業は容易ではなく、施工面において効率的ではない。したがって、杭の変形性能を向上させるために、杭の中空部を中詰め材を用いて補強する方法は有効であるが、施工面の自由度を確保するために、杭の中空部を残した改良方法の検討も必要であると考えられる。
 本報では、既製コンクリート杭の施工面を考慮し、中空部を残した杭の変形性能を向上させる改良方法として、①杭の肉厚を厚くする方法、②杭の中空部に内鋼管を設置する方法、を提案し、改良方法の妥当性を確認するため、既報5), 6)で有効性を示した中詰め材を用いた補強方法との比較を行った。また、既報5), 6)で行った単純梁方式による曲げ試験および片持ち梁方式による曲げせん断試験により、提案した改良方法が変形性能に与える効果の確認を行った。両方式の利点として、単純梁方式では、曲げモーメント一定の区間を設けることができ、曲率を計測しやすいという点、片持ち梁方式では、大変形時まで載荷が行える点や引張軸力の導入および軸方向変位の計測が比較的容易などの点が挙げられる。以上のそれぞれに利点があることから、両方式にて試験を実施することとした。
 また、実務設計に用いることを目的として、中空部を残した杭の変形性能を評価するための簡易的な解析手法により、降伏および最大曲げモーメントとそれぞれの時の曲率の解析値と試験値の比較、最大耐力以降の劣化性状の確認を行った。

Download