2007.11.15

一方向の繰返し軸荷重を受ける粘土中の摩擦杭の変形挙動

稲 国芳(武智工務所)・岸田英明(東京工業大学)

■掲載誌:繰返し応力を受ける変形に関するシンポジウム発表論文集,III―3,p99-106
■発行所:土質工学会
■発行:1990

 杭は常に一定の荷重を支えてはいれば良いというわけではない。陸上構造物の杭は、地震1)、風2)などの作用による繰返し荷重を受けるし、海洋構造物の杭では波浪力3)4)5)による繰返し荷重が主要な外力となっている。近年その合理性が再評価されつつある摩擦杭は、各研究機関において調査、研究が鋭意進められ、長期的な挙動は明らかにされつつある。今後摩擦杭が積極的に採用されるためには、上記の繰返し荷重時の挙動が明確にされる必要があろう。
 図-1は一定軸荷重(Qave)と、それに重ね合わされた繰返し軸荷重(±Qamp)を受ける粘土中の摩擦単杭を表している。杭に作用する繰返し軸荷重の形態は、一定軸荷重(Qave) と繰返し軸荷重振幅(Qamp)の相対的な大きさにより、一方向載荷(Qava>Qamp)と二方向載荷(Qava<Qamp)に分類できるが、本報告は一方向の繰返し軸荷重を受ける粘土中の摩擦杭について考察したものである。
 粘土中の摩擦杭に一方向の規則的な繰返し軸荷重が作用すると、変位振幅は一定に保たれたまま、塑性変位(平均変位)が累積する。塑性変位の累積の割合は繰返し回数と共にしだいに減少していくが、破壊に至る場合には、変位振幅は一定のまま推移するものの、この塑性変位の増大による破壊モードとなる(図-2)。このような杭の変形挙動は、現場実験3)4)5)や模型実験6)において観察されており、一方向の繰返し軸荷重を受ける杭の挙動を支配する塑性変位の累積機構の解明が重要と思われる。しかしながら、繰返し載荷に伴う杭の塑性変位応答は、一定荷重(Qave)、荷重振幅(±Qamp)、周期(T)、繰返し回数(N)、荷重波形等の要因によって様々に変化することが認められている。さらに、重要な要因としては、杭を支える地盤の力学的特性が上げられる。
 地盤材料としての粘土の力学的特性は、その顕著な時間依存性挙動で特徴づけられる。すなわち、粘土の非排水強度が載荷速度によって変化することは、粘土が時間依存性挙動7)で特徴づけられる。すなわち、粘土の非排水強度が載荷速度によって変化することは、粘土が時間依存性を示す一つの事象である。また、粘土に一定の応力を作用させると変形は時間と共に増大するが、これはクリープ変形として知られている。さらに通常の試験から求められたせん断強度よりも低いせん断応力のもとで試料が破壊に至る現象(クリープ破壊)の存在も明らかにされてきた。このような粘土の時間依存性挙動に関する研究は古くから精力的に行なわれてきており、これらの研究成果の一部は粘土中の摩擦杭の載荷試験結果の解釈および支持力決定に用いられている。8)9)10)
 一方、Hyde & Brown11)、 Hyde & Ward12)は、粘性土のクリープ特性と繰返しせん断特性の類似性に着目し、粘性土の繰返し挙動予測に、Singh & Mitchellのクリープ関数13)を応用できることを見出している。同様に、松井ら14)もクリープ関数13)を応用することにより、繰返し応力を受ける粘土の挙動とクリープ挙動との間の類似点を指摘し、さらに両者の本質的な機構が同じである可能性を示唆している。
 本研究は、上述の粘性土のクリープ挙動と繰返しせん断挙動の類似性に注目し、一方向の規則的な繰返し軸荷重を受ける粘土中の模型摩擦杭の塑性変位の予測を試みたものである。繰返し載荷試験に先立ち、4種類の荷重レベルで一定荷重(クリープ)載荷試験を行い、得られた荷重〜変位〜時間の結果をもとに、杭〜地盤系のクリープパラメーターを求めている。次に、繰返し試験の変動荷重を一連のクリープ荷重の集合と仮定し、静的な動的荷重を算出している。繰返し荷重に伴う杭の塑性変位は、その静的な等価荷重のクリープ変位の経時変化として与えられている。
 なお、本報告における一定荷重載荷試験および一方向繰返し載荷試験はそれぞれ破壊に至らない荷重範囲内で行なわれた実験である。

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